生命と向き合う写真家・岡田敦がユルリ島で撮り続けた光とは?

生命と向き合う写真家・岡田敦がユルリ島で撮り続けた光とは?

光を好む写真家もいれば、光を好まない写真家もいる。

闇を撮ることにより、小さな光を見つけることができることも。

北海道根室沖の幻の無人島 「ユルリ島」で、取り残された馬の写真を撮り続けている写真家がいるという記事を見たのは、もう10年以上前になるでしょうか。

ユルリ島は北海道の天然記念物に指定され、北方系の海鳥の繁殖地として入島が厳しく、一般の立ち入りは禁じられていた島。

根室の沖合2.6キロくらいにあるその島は、根室市民にとっても、近くて遠い存在だったそうです。

ベールに包まれた、その島に、特別な許可をとり、漁師さんに船をお願いして島に渡るという写真家・岡田敦さん。

馬だけが暮らす無人島に上陸すると、テントを張り、悠久の時を刻むユルリ島の束の間の住人となります。

生と隣り合わせにある死、生命の誕生、人や自然のリアルを切り取る写真家・岡田敦さんが撮り続けたユルリ島の現実。

ユルリ島は、夏は高山植物が咲き誇り多彩な色に彩られる一方、霧に包まれることも多く、短い秋が過ぎると、雪が舞い、厳寒の白い世界に包まれます。

2023年晩夏、北海道鹿追町にある神田日勝記念美術館で目撃した「神田日勝×岡田敦 幻の馬」は、強烈な印象を私に残しました。

未完の馬の絵を残し、32歳で天に旅立った洋画家・神田日勝の作品群の間に、吸い込まれるような瞳を持つ白馬の写真を見つけます。

岡田さんが最初島で見た馬の数は12頭、すべて雌なので増えることはなく、現在はユルリ島の馬の血脈を受け継ぐものは残り2頭となり、途絶えてしまう日も近いかもしれません。

「消えゆく馬」を捉え続けた写真に見たものは、失うわれるもののはかなさではなく、まさに生命そのもので、圧倒的な美しさでした。

全てを悟ったような優しい表情には、人間が考える悲観的なものはなく、潔さと自由、そして、厳しい自然の中に見つける光のようなものを感じます。

画家は、永遠の“魂”を半身の馬にふきこみ、写真家は、人知れず消えゆく馬に“存在”を与えました。

その“存在”が、根室の市民の方々に与えた影響は、想像以上に多大なものであったことでしょう。

JRA賞馬事文化賞も受賞した「エピタフ 幻の島、ユルリの光跡」には、ユルリ島の歴史と光景を永遠に残したいという岡田さんの想い、使命ともいうべき迫力を感じます。

ユルリ島での撮影時には、岡田敦さんは、haruka nakamuraさんの楽曲を聴いていたそうです。

岡田さんのユルリ島の雄大な映像とharuka nakamuraさんの音楽の対話のようなコラボ作品が、3月2日、3日に開催されるZERO CROSS in 芸森スタジオ&Cloud Lodgeのイベントの中で、ディナー時に、芸森スタジオの上質なスピーカーにて、上映される予定です。

芸森スタジオの外には雪が残り、まだ寒さも厳しく、暖炉の火が枝を燃やす音をたてるでしょう。

周囲は断崖に囲まれ、灯台が一つぽつんと建っている幻想世界・ユルリ島の映像に、生命の気配を見つけてみてください。

プロフィール

岡田 敦 写真家・芸術学博士

北海道札幌市出身。2008年、東京工芸大学大学院芸術学研究科博士後期課程を修了し、博士(芸術学)の学位を取得。同年、“写真界の芥川賞”と称される木村伊兵衛写真賞を受賞。2011年に根室半島沖に浮かぶユルリ島に渡島し、馬を被写体とした作品の制作を開始する。かつて人が持ち込んだが、いまでは無人となった島で野生化した馬を追った活動は話題となり、2014年に北海道文化奨励賞、2017年に東川賞特別作家賞を受賞。2023年にユルリ島での10年余りにわたる活動の記録をまとめた書籍『エピタフ 幻の島、ユルリの光跡』を発表し、同作品にてJRA賞馬事文化賞を受賞。作品は北海道立近代美術館、東川町文化ギャラリーなどにパブリックコレクションされている。